Eyes for Details Vol.16 - Keys to the Kingdom

October 2001
Written by Marc Saltzman
Electronic Gaming Monthly

ビデオゲームエミュレータがあればいつでもどこでもゲームを楽しめる。でもこれはソフトウェアを保存する害のない方法なのか、それとも明らかな海賊行為なのか?Electornic Gaming Monthlyの調査をお届けしよう

 学校や仕事場、はたまた飛行機の中で隣の人が突然ノートパソコンを開いてゲームパッドを引っぱり出し、ロボトロンをプレイし出したとしよう。

 「おお、このコピーゲーム、なかなか出来のいいシェアウェアだな…」とあなたは思うかもしれない。ただしそれが、そこら辺の真似っこプログラマが作った偽モノゲームではなく、本物のロボトロンとわかるまでは。

「うーむ、MidwayがまたWilliamsゲーム集をPC用か何かにリリースしたに違いない。」と想像しながら、ふともう一度画面を見れば、隣の彼はスーパーファミコンのSecret of Manaにすっかりはまっている。次にはメガドライブのソニック・ザ・ヘッジホッグを立ち上げ、あっという間にポケモンシルバー、グランツーリスモ2、そしてマリオパーティー3のミニゲームと切り替えた。

 これは一体どういうことだ?

 過去にリリースされたビデオゲームをPC上でプレイする方法について、凄腕プログラマーたちが道筋をつけたのはわずか2、3年前のことだ。もちろん、ゲームが本来対応しているプラットフォームにかかわらずである。かつてはアングラ通達の道楽だったものは、次第にメインストリームへと成長し、今ではPCだけではなくPalmやPocketPCなどでも、現役のコンソール用ゲームがプレイできるようになった。おまけに全部タダである。それは一体何だと思うだろう。

 それでは、ワイルドでワイヤード(そして今ではワイヤレス)なビデオゲームエミュレーションの世界へご案内しよう。

それじゃエミュレーションって一体何モノ?

 まずは基本から見ていこう。エミュレータと呼ばれるものは、あるマシン用に作られたソフトを別なマシン(PocketPC、ゲーム専用機、そして最も一般的なのがパソコン)上で動作させるプログラムのことである。ゲームマニアにとってみれば、ちゃんとしたエミュレータさえあれば、元々は家庭用ゲーム機(Atari 2600、Intellivision、PlayStationなど)や、コンピュータ(AppleII, Atari STなど)、さらにはアーケード用にデザインされたゲームであっても、大抵のものがパソコン上などでプレイできるというわけだ。

 もう少し技術的な話をすると、エミュレータとはPC上にオリジナルマシンのハード環境を再現し、そこでエミュレートするゲームのROMデータを動作させるものだ。つまり、エミュレータかROMの片方だけではだめで、両方そろってはじめてゲームができる。こうして再現されるゲームは、オリジナルのリメイクではなく本物である。実際にソフト側は、本来とは違うプラットフォームで動作していることに気づいてはいない。エミュレータの中には、オンライン上で2人プレイ(モータルコンバット2の対戦など)がプレイできるものさえある。

 エミュレーションファンは大抵ウェブからエミュレータやROMをダウンロードしている。こうしたROMは、アーケードゲームやゲームカートリッジ用のROMリーダーやEPROMリーダーを自作、または購入したエンジニア達によりオンラインへと流され、コピーされてインターネットへアップロードされる。

話がうますぎるよ。こういうものは合法なはずがない、そうでしょ?

 とても単純なことだが、エミュレータ自体をダウンロードして使うことは100%合法である。しかしROMをダウンロードしてプレイすることは明らかに著作権違反だ。オリジナルのROMが取り出されたアーケードマシン、カートリッジ、ディスクなどを持っていない場合、製造者や開発者の承諾なしにROMをプレイすることは技術的に違法となる。

 この関係を、今音楽業界が頭を悩ませているmp3の問題に当てはめて考えると、WinAMPやMusicMatch、Soniqueなどのmp3プレイヤーをダウンロードすることは全くの合法だ。これらは単純にプレイヤーであって、どんな曲を再生するのかまでは区別がつけられていない。ただし、Napsterやウェブ経由でのmp3交換サービスは著作権侵害としてレーベル各社から猛烈な突き上げを食らっている。音楽や映画、書籍、そしてもちろんゲームなどは、これからもインターネットが知的所有権の制御に対して脅威となり続けるのは言うまでもないだろう。

 今のところ、あなたがパックマンのROMをPCでプレイしたからといって、いきなりしょっ引かれれるようなことはないので心配はいらない。音楽レーベルの関係者が、個人のNapsterの使用歴を追跡していないように、ゲームエミュレーションに個人が関わることについても厳しい取り締まりは行われていない。そのかわり、ROMを大量にオンラインでダウンロードできるようにする人たちは、問題となる危険がある。ゲームボーイやNintendo64のROMをウェブ上で公開していた人たちが、それを中止するように任天堂から警告を受けるまでのここ数年間は、ROMを保有、配布することはゲーム会社からは大目に見られていた。しかしこの動きにセガも続き、メガドライブ用ROMのダウンロードサイトに、同様の威嚇を行った。業界でのアンチエミュレーションの動きが起きたのは突然の出来事だった。

 Jupiter Media Metrix社で企業リサーチのリーダーを務めるBilly Pidgeon氏は、ROMのダウンロードについて明らかなグレーゾーンが存在していると考えている。「もし、著作権の所有者がそれを強く押しつけないという態度をとるならば、それをもとに(ROMをプレイすることは)暗黙のうちに法には触れないという状態が続くだろう。」と彼は述べた。「しかし技術的には、著作権のあるソフトを許可なしでコピーすることは海賊行為だ。もちろん他のプラットフォームを再現することとは問題が違う。また、実際に買ったソフトを別なマシンで動作させるようなエミュレータ、例えばbleemcast!を使ってPlayStationのゲームをDreamcast上でプレイする用途ならば、著作権侵害ではない。」

 とはいえ、これによってSonyのbleem!社に対する法的攻撃を止めるには至っていない。ロサンゼルスにある同社は、Dreamcast上でPS1のゲームを出来るようにするエミュレータ、bleemcast!を販売した。同様の訴訟を付きつけられたソフト会社のConnectixは、PS1用ゲームをMacやPC上でエミュレートする同社のVirtual Game Stationの販売中止に同意した。

 また、ほとんど効果はないと思われるが、「法的に権利がない場合はファイルのダウンロードはできません」とか、「エミュレータと一緒にROMを配布することを禁じます。また商用利用してはいけません」という警告をウェブサイトは出してきた。この他ににも、「ROMは24時間以内の評価用です。その後は実機やパッケージを購入するか、ROMを削除しなければいけません」というものもある。しかし、こういった免責文は法的な正当性を与えるものではなく、ROMのダウンロードが依然として海賊行為のひとつであることに変わりはない。

M.A.M.E.って何?

 人気ナンバーワンのエミュレータは間違いなくM.A.M.E.だ。これは、マルチプル・アーケード・マシン・エミュレータの略である。その名の通り、過去のアーケードマシンをエミュレートするプログラムで、1970年代後半から1990年代半ばにかけてのゲームを2000以上サポートしている。例を挙げると、ドンキーコング、ペーパーボーイ、ストリートファイターなども含まれている。M.A.M.E.は、イタリア人プログラマーNicola Salmoria氏により作成され、開始から5年以上にわたり開発が続けられている。様々なプラットフォームへの移植も行われ、世界中に散らばる20人以上のフリープログラマーによるコアチームは、新タイトルのコーディング、既存タイトルの更新、さらに新バージョンへの改良を続けている。

 M.A.M.E.では、皆さんが思い当たるようなクラシックゲームをプレイできるだけではなく、ゲーム途中でのセーブ、マルチ入力のサポートなど、その他多くの追加機能も実装されている。まさに見事なプログラムだ。そしてもちろん作者であるSalmoria氏は最大の擁護者である。「確かに自分が持っていないROMイメージを使用することは技術的には違法だ」と彼は語る。「だが、10年前や20年前のアーケードゲームを私達がプレイすることで、何か実際の害があるわけではない。これらはすでに販売されていないし、著作権の保有者は既にその製品から全てを稼ぎ終えている。さらに重要なのは、私達の活動というのは文化的に大変意味深いということだ。次の世代にこれらのゲームを保存しようとう試みである。オリジナルの基板を動作可能な状態で保存してゆくことはまず無理であって、エミュレーションはそれに対する唯一有効な選択肢といえる。」

 フロリダ州オーランドに住むMike Balfour氏はこれまで25本近くのアタリとセガ製のゲームについてM.A.M.E.で作業をしてきた。彼は、エミュレータは著作権侵害を助長するものではなく、むしろこのままでは忘れ去られてしまう古いゲームをプレイできるようにデザインされていると主張している。「エミュレーションコミュニティには、こういうゲームはもう古くなったから大丈夫という考えは確かにあるようだ」と彼。「つまり、既にマーケットが存在しないマシンだけをエミュレートすることが大事だという意見だ」。しかしSalmoria氏同様、Balfour氏もパブリックドメインなもの(MidwayのRobby Roto)や自家製のシェアウェアタイトル以外のROMをダウンロードすることは完全に合法ではないと認めている。

強気な任天堂

 1999の初め、任天堂が当時ブームとなっていたゲームボーイエミュレーションに対して厳しい態度で望むことを表明したしばらく後のことだが、同社が最も恐れていたことがNintendo64エミュレータ、UltraHLE(Ultra High-Level Emulaton)の登場という形で現れた。ゲーマーはわずか170KBのエミュレータで、N64のROMを本来の320x240よりもはるかにシャープな800x600の解像度でプレイすることができたのだ。ROM自体のサイズは8MB~40MBほどだが、ケーブルモデムやDSL、T1などの高速回線があれば、最大級のROMをダウンロードしても大した問題ではないだろう。またROM自体も、ちょっと探せばオンライン上で見つけるのはたやすい。「エミュレーションは任天堂にとって重大な問題である。ゲーム会社が保有する知的所有権を大きく脅かすものだからだ」と語るのはNintendo of Americaの業務担当副社長であるParrin Kaplan氏だ。「そしてインターネットとは、違法ソフトをあっというまに広範囲へばらまく手段といえる。フリーで公開されている場合は特にそうだ。」

 任天堂は既に開発が終了したシステム用と最新コンソール用のエミュレータの区別はないとしている。Kaplan氏によるとこれらは全て悪いという。「製品の新旧にかかわらず、あらゆるエミュレーション活動は我々に関係している」とKaplan氏は語った。「恐らく多くの人は知らないだろうが、当社製品の著作権はその発売日から75年間有効だ。従って、これらのゲームをエミュレートすることは、知的所有権の一線を超えている。ただ、ゲームが新しいものであるほど、予期しない損失を我々がこうむるのも早いのは確かだ。」

 任天堂は、エミュレーションがソフトウェアの不正コピーであるという姿勢を貫いているが、これを阻止するために、Nintenod of America内には同社の製品の悪用を追求する専門の部署がある。「このグループには、法的な背景をもとに、連邦議会の当局担当者もいる。同業他社も同じようにこの事態の蔓延と戦っている。可能であればいつでも法的権利を行使することにためらいはない。我が社の(ゲームキューブを含めた)全てのシステムでは最善の偽造防止技術を使っている。偽造やエミュレーションの分野に関わる者は手腕に長け、戦略的でもある。これは絶えず続く挑戦なのだ」と同氏。

 しかし、MidwayやActivision、Infogramesなど現行のシステムに昔のゲーム(皮肉にも既にエミュレートされているもの)を再パッケージして販売しているゲーム会社についてはどうなのだろうか?M.A.M.E.でもプレイできる80年代のクラシックアーケードゲームを数多く製作したゲームデザイナー、皆さんもご存知のEd Logg氏にコンタクトしてみた。Logg氏は20年以上ゲームデザインとプログラミングに携わり、これまでにアステロイド、センチピード、ミリピード、ガントレットなどのアーケードゲーム、さらにはNintendo64用のWayne Gretzky 3D Hockey、San Francisco Rush、San Francisco Rush 2なども彼が手がけた。彼曰く、PCやドリームキャスト向けのPlayStationエミュレータについては、実際にゲームを買う必要があるため、彼自身への問題はない。ただし、このようなエミュレータとM.A.M.E.では論理的な違いがあるという。「誰かがインターネットからCDやゲーム(ROM)をコピーしたとなると、私は困ったことになる」と彼は言う。加えて、彼が関わったオールドゲームの権利は彼自身にはないため、ROMコピーは金銭的な動機付けにならないことに不満を抱いている。

 Mike Albaugh氏もまた、アタリ社のベテラン社員だ(正確には1976年3月26日から勤務)。彼は、アタリフットボール(ちなみにこれはトラックボールを最初に使ったゲーム)やデストロイヤーなど、同社おなじみの傑作タイトルの多くでサポートやプログラミングを行ってきた。また、テンペストやバトルゾーンの仕事も手がけた。彼もLogg氏同様に、ROMをダウンロードする人たちを好きにはなれないというが、ゲームエミュレーションの存在は受け入れている。「エミュレータが歴史的な見方をもたらすことは気に入っている。それと、変なプライドみたいなものがあるのも認めなければいけない」と彼は話す。「しかし、タダゲーができるという理由でM.A.M.E.を使う人は、もっとまっとうな生き方を真剣に考えるべきだ。」Albaugh氏はまた、ソフトの違法コピーについてもうんざりしていて、ゲーム機会社がPS1やN64エミュレータに対してむきにになる気持ちもわかるという。

正しいことをしよう…

 今回インタービューをしたどちらの側も、エミュレーションがすぐには廃れてしまうことはないと見ている。そしてPlayStation2やゲームキューブ、さらにはXBoxのエミュレータがダウンロードできる日もそう遠いことではないかもしれない。実際に、つい先日リリースされたばかりのゲームボーイアドバンスのエミュレータは既に出回っている。

 もしあなたがくだらないエミュレータにはまっているなら、私達がいえることは、その意図をよく考えてやって欲しいということだ。クラシックものをエミュレートするならば、それが便利である(ピットフォールをするのにAtari2600を毎回引っぱり出すことはないだろう)とか、オールドゲームが生き続けるようにという理由であるべきだ。お金が無いからと新作ゲームをダウンロードするのは、明らかにオンラインにおける海賊行為だ。そのようなゲームをプレイすればゲーム業界は痛めつけられ──そして長い目でみれば──全てのゲーマーにはねかえってくることになる。