Eyes for Details Vol.12 -リバースエンジニアリングの是非【前編】

不可欠な技術か、違法行為か?

January 23rd, 2001
Original Text by Karen D. Schwartz
Planet IT

 鍵となる判決は、10月9日にカリフォルニア州、サンマテオにある連邦控訴裁によって出された。中でも家庭用テレビゲームについて触れた個所は、ソフトウェア界全体に直接影響するものだった。判決は、工業所有権のあるハードウェアを、解析を目的としてリバースエンジニアリングすることを支持するというものだ。そしてこれは、過去2年間、ほぼ全ての形態のリバースエンジニアリングを禁止する姿勢を取ってきた連邦議会に正面から対抗するものだ。議会での禁止決議(1998年のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)の一部)は、現行の法律の適用範囲をソフトウェアにまで拡大するのが意図であった。しかし、SONY対Connectixで争われた裁判での判決がこの法律の盲点を示した可能性がある。アンチウイルスソフトなどが、他のプログラムの不自然な振る舞いを検出できるようにオペレーティングシステムを解析するといった、新しい形のリバースエンジニアリングについて正当化する必要があるのだ。

「もしあなたが、何かの課題について研究をしている教師だったとしよう。そしてあなた独自の研究論文のために、多くの本から写真のコピーをとり、それを参考として使うことはできる」と、Connectix社(カリフォルニア州・サンマテオ)の社長でVirtual Game Stationの開発者でもあるRoy McDonald氏は語る。彼は今回の訴訟での勝利者だ。

「一見したところ、これは著作物から直接コピーをとったということで、違法であるように思われるが、『公正使用(Fair Use)』の原則に照らせば許されることだ。とはいえ、もし他人の本から全部のページを50部もコピーして、生徒に配ればそれはたぶん違法になるだろう。問題はどこに線を引くかだ。そして『公正使用』の原則がその線引きに関わる全てである。」

 今回の裁定は、人気ゲーム機Play Stationの発売元であるSony Computer Entertainment of AmericaからConnectixに出されていた申し立てを支持していた一連の連邦地裁での判決を覆すものだ。ゲーム業界のライバルである、NintendoやSEGAのサポートも受け、SONYは、Connectix社がPlayStationゲームをG3・G4 Macintoshや、最終的にWindowsベースのPCで動作可能にした際、PlayStationのコードをコピーするために違法なリバースエンジニアリングを行ったと主張していた。

 第9巡回区連邦控訴裁は、基本的に他社の持つコードがどのように動作しているかをリバースエンジニアリングによって突き止めることは、合衆国の著作権法上にある『公正使用』の原則により許可されるとの裁定を下した。控訴裁は10月の判定でSONYの訴えを退け、残りの訴訟も棄却するとした。

 McDonald氏は、SONYのコードをリバースエンジニアする自社の権利について、弁護者として素直に語ってきたが、同様の戦略をとる他の会社も、この件の成果については満足した態度を示している。

「Connectixの得た判定は、リバースエンジニアするためにソフトウェアをコピーすることが著作権違反ではないことを明らかにした初めてのものだ。もちろんこれには逆アセンブルしたもので作業したり、それらをコピーすることも含まれている」と語るのは、bleem!社(カリフォルニア州・ビバリーヒルズ)の顧問弁護士であるJonathan Hangartner氏である。Bleem!社もまたSONYと法廷で争った。さかのぼること1999年4月、SONYは新興ソフトデベロッパであったBleem!がPlayStationゲームをパソコン上で動作できるようにした際に、著作権違反に荷担し、その開発により企業秘密を不当に犯したと、十分な証拠のない申し立てを行った。(本誌からSONYへのインタビューの申し出は断られた)

まさにデジタルミレニアム

 去年の10月に成立したデジタルミレニアム著作権法(DMCA)では、相互運用可能な製品を開発するために、リバースエンジニアリングによって技術的なプロテクトを回避することを明白に禁止している。

「まさにデジタル時代の理論だ。デジタルでは物事を複製し、広くばらまくことがいとも簡単に出来る。それゆえ技術的なプロテクトが必要とされる。」ワシントンD.C.にあるMorrison & Foersterの著作権とインターネット法規の責任者、Jonathan Band氏はこう語る。「しかも、技術的プロテクト自体をハックして非合法に迂回したり、またそういったデバイスを配布することは、16歳の少年にだって簡単に出来てしまうだろう。」

 しかし、Connectixがリバースエンジニリングを用いたのは、PlayStation用ゲームをPlayStation上でプレイさせることではなく、他のメディアで動作させるのが目的だったのは明らかだ。これについてBand氏は、Connectixの活動はDMCAをのがれたと判断している。 DMCAが公式に著作権法の『公正使用』原則を考慮しており、そして同時に著作権法がソフトウェアにも当てはまるという弁護士の論法が成功した。仮定として、Microsoft Windowsについても、もしWindows以外のOSでWindows用プログラムを動作させるという目的ならば、OSのリバースエンジニアリングが同様に正当と認められるかもしれない。連邦控訴裁の判決は当然これを支持しているのだ。

後編へ続く