「というわけなんだ、まったくピートにはまいっちゃうよ」
アーロンはテーブルの上のティーボーンステーキも途中に、先日のピートがしたそそうについて話した。
「ハハハ、相手は猫だからな」
ブラッドは一応笑ってみせた。しかし彼も猫を飼っているから、内心ひとごとではないとヒヤヒヤしていた。
オークランドのサンパブロアヴェニューに面したカフェには霧雨が降りつけている。
「それで、イタリアマフィアが言ってきたことはどうするんだ?」
「すっかり参っているよ。僕は技術屋だから、政治的なことは苦手なのは君が一番知ってるだろ」
アーロンはステーキをほおばった。
「でも今じゃあんたが動かしているようなもんだろ。CS-P2だって結局ああなったことだし、どうにでもなるよ」
「ブラッド、僕はそんなつもりで今までやってきたつもりはないんだよ」
「ハッハッハ。あんたは、やっぱりエミュ馬鹿一代だな」
しばらく中年男同士の他愛も無い話が続いた。別れ際にブラッドが言った。
「メリークリスマス。奥さんによろしくな。それから猫缶ありがとう」
「ああ、良いクリスマスを!」
アーロンはこの日のために、妻キャサリンが以前から欲しがっていた、イグアナがメールを運んでくれるというアプリケーションをクリスマスプレゼントとして用意してあったのだ。彼にとってメーラーを作ることなどは、もちろん造作も無いことだ。
「ただいまキャシー」
テーブルの上には既にターキーがきれいに盛り付けられていた。
「お帰りなさい。ブラッドは元気だった?」
「ああ、元気過ぎるくらいさ…君によろしく言ってたよ。見てごらん、キャシー」
アーロンはおもむろにCD-Rを取りだし、彼女のMclintoshに入れた。
「あら、これって、あたしが言ってたイグアナメーラー?」
画面ではリボンをつけた一匹のイグアナが、『Merry Xmas』と書いたメールをくわえて、左右に動き廻っている。
「君のために作ったんだ」
「ありがとう、アーロン。うれしいわ」
「僕の愛はエミュレーションじゃないのさ」
「あなたって本当にMAMEな人ね」
雨はいつしか雪へと変わり、ベイエリアの聖夜は更けていった…かどうかは知らん。